グラ神(gula)はシュメールを発とする癒し、医療、健康を司る偉大な女神であり、病気を与えることもできるとされていた。また、医師の守護神でもあった。別名としてニンカラク神、ニンティンウガ神、グヌラ神、メメ神1、生命の女神であるベラート・バラーティ(Bēlat-balāṭi)と同一視され、イシンを守護した際にはニンイシナ神(イシンの女主人)と呼ばれた。
グラという名前自体は「最も偉大な者」を意味し、元々彼女を示す形容詞だったものが名前として定着したものと思われる。元の名前は先に挙げた別名のうちどれか、あるいは複数だろう。
目次
もっていた役割
癒しの神
彼女はメソポタミアの歴史を通して徐々に癒しの神としての立場を増していった神である。ちなみにそれに伴ってニンフルサグ女神に代表される地母神の地位は低下した。
中国の黄巾の乱の例や、中世の聖トマスの参詣の例からも分かるように「病が治る信仰」は劇的に拡がることがあり、グラ神の信仰もある段階で劇的に増したことが分かっている。
もちろんメソポタミアはバチバチの儀式宗教なため、グラ神の癒しには儀式が必要であった。儀式としては犬を犠牲に捧げたりしていて実に嫌である。
医師の神
彼女は「偉大なる母 」や 「母なるグラ」などの呼び名があったが、一部の条文などでは彼女自身が偉大な医師と呼ばれていた。
彼女は癒しの女神であるだけでなく、「病気を理解した」と形容される、つまり医学に精通した神であった。だからこそ医者の守り神だということだ。
では当時の医学がどの程度だったかというと、落石に巻き込まれた箇所を切除した外科手術痕や、感染病患者の隔離跡は見つかっている2。
しかし、たまにいわれるような白内障の手術を成功していたなどは一切証拠のないデマであるため、失われた技術などは基本的になかったものだと思われる。
水瓶座の神
星座に関して、現在我々が準じているのは俗に言うトレミーの48星座であるが、その中でも最も有名な黄道十二星座のうちの一つ、水瓶座はグラ神が元である可能性がある。
メソポタミアの星座を示した星図では、水瓶座は一般に巨人の姿で描かれる。この巨人はグラと呼ばれる。同名というか、グラという名自体は素晴らしいを意味するものなのだが、「素晴らしい」と呼ばれる男が水瓶座の巨人、「素晴らしい」と呼ばれる女神がグラ神であった。

水瓶座の巨人。神っぽくない姿をしている。流れる水ではみなみのうお座が泳いでいることもある。
ここまでなら単なるややこしい同名で済む話であるが、ある時から時々、水瓶座が女神の姿として描かれることがあった。この女神の正体は誰にも分らない。グラは犬を連れている以外特別な外見的特徴がある神ではなかったため判断は難しい。
しかし、この女神の正体を見抜くヒントとして、グラという名前が挙げられる。つまり「名前が一緒だから、一緒にしちゃったんじゃね?」という推理が成り立つわけだ。別にふざけているわけではなく名前はメソポタミアにとって重要だったし、数千年規模の話であるから起こること自体はあり得る話ではある。
しかし、もちろん違う可能性は十分にある。ちなみにグラという男の巨人はエンキ神だとする考えもある。
崇拝された場所
グーラの主な信仰の中心地はイシン市であり、それは彼女の異称であるニンイシナ女神にも表れている。そこにある彼女の神殿はエガルマフ神殿(Egal-maḫ)「高貴な宮殿」と呼ばれる建造物である。
また、ウンマ、ウル、ボルシッパ、シッパル、ニップル、ウルク、ラルサ、アッシュル、ララクなどの多くの都市に神殿を持っていた事が分かっている。また、バビロンにも3つの神殿があり、時には配偶神であるニヌルタ神と神殿を共有していた。グラ神の祭りは、ウンマ市、ラルサ市、ウル市で行われたことが証明されている。3
神話上の活躍
特に発見されていない。主に儀式で活躍していたためである。
他の神々との関係
親はアヌ神とその妻であることが一般的で、夫はニヌルタ神かパビルサグ神である。またアブ・ウという植物神の妻である場合もあった。ネルガル神の妻であることもあったが珍しいパターンである。
彼女の七人の子供の内、五人の神は全く詳細不明だそうだが、残りの二人はある程度有名な癒しの神ダムゥ神と冥界の神ニンアズ神である。また、グラ神の宰相としてウルマシュウという神が登場する。
ちなみに射手座の元祖はパビルサグ神だからパビルサグ神が配偶神説を推すとなると、射手座と水瓶座は夫婦という事になる。占星術界に新たな転機が訪れてしまうかもしれない。
武器・随獣
グラ神はニヌルタ神と共に国境を定めるクドゥッルの守護神として登場するが、その際にはよく彼女の傍に犬が連れ立って描かれている。
犬は彼女のシンボルであり、彼女の神殿には犬の模型が奉納されている。イシン市の彼女の境内では、大量の犬の埋葬が行われたが、その犬の骨はおそらく病人のために捧げられた犠牲の跡であろう4。ワンチャンカワイソス。
描かれ方

グラ神は細長い帽子を着用した、椅子に座った女性の姿で描かれるが、これはかなり一般的な描かれ方であるため、判別するためには傍らの犬を見て判断する必要がある。
後世の扱い
最終的には新バビロニア時代には嵐を起こしたり、地震を起こしたり、ハーブを栽培出来たりするようになる。なんで?
そのため神として維持できなくなったのか、かなりの広域で信仰された神であるにも関わらず後の世ではほとんど見られなくなってしまう悲しい神である。
余談
たまに本で「水の神」と描写されているが、水瓶座関連の話以外には水関連の要素はあまり見られない。しかし、私が見落としているだけかもしれない。情報を知っていれば教えて頂ければありがたいです。
もし水の要素もあればホロライブENの某VTuberとの共通点がかなり増えてしまう。綴りが違うが。
主要参考文献
Black, J.A., Cunningham, G., Ebeling, J., Flückiger-Hawker, E., Robson, E., Taylor, J., and Zólyomi, G., The Electronic Text Corpus of Sumerian Literature (http://etcsl.orinst.ox.ac.uk/), Oxford 1998–2006.
Frayne, Douglas R.; Stuckey, Johanna H.. A Handbook of Gods and Goddesses of the Ancient Near East (pp.207-210). Penn State University Press. Kindle 版.